野外試験法
農薬が圃場で土着天敵の活動にどの程度の影響を与えるかを具体的なデ−タとして示すのが目的である。そこで試験の対象とする天敵を選定するのが第1のステップである。 従来の影響試験法では第一に薬剤のタ-ゲット害虫の寄主特異性天敵に対する影響評価が行われた。しかし、薬剤の使用はその害虫に卓効のあることが前提であり、天敵に対する影響の有無にかかわらず、餌不足が天敵に決定的な影響をもたらす。 一方同時に起るマイナ−害虫天敵への悪影響はその害虫の思わぬ多発生につながる場合が多い。従って、天敵に対する評価はむしろ後者を重点的に扱う必要がある。 また、多食性の捕食者(テントウムシ・カゲロウ・ハナカメムシ等)に対する影響は必ず同時に評価する必要がある。
水田生態系における殺虫剤の影響評価を例に取れば、ウンカ・ヨコバイ類の殺虫剤ではその主要天敵であるホソハネヤドリコバチ以上に、メイチュウサムライコマユバチやズイムシアカタマゴバチに対する影響評価を考慮する必要がある。ニカメイガの防除薬剤の場合にはその寄生蜂に対する影響評価と同時にウンカ・ヨコバイ類の天敵に対する評価を重要視しなければならない。
水田の害虫と天敵の関係
タ-ゲット害虫 |
ウンカ・ヨコバイ類 |
ホソハネヤドリコバチ |
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クモ類 |
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カマバチ |
サブタ-ゲット害虫 |
ニカメイガ |
メイチュウサムライコマユバチ |
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ズイムシアカタマゴバチ |
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フタオビコヤガ |
ホウネンタワラバチ |
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イチモンジセセリ |
バオリスコマユバチ |
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ミツクリヒメコバチ |
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多食性捕食者 |
殺虫剤と天敵その他の手段を組み合わせた防除を体系化するIPMでは、天敵にいくらか影響のある薬剤も使用することが求められる。その場合、どの程度の影響が予測されるかを圃場条件で評価する必要がある。圃場では薬剤の直接天敵に対する影響と、その餌(害虫・ただの虫)を通じての影響、天敵の高次寄生蜂に対する影響を通じてなど、複雑に絡み合っている。また、天敵は寄主の体内にいるもの、土壌中で蛹になるものは薬剤と実際には接触しないなど、薬剤の影響を逃れることも多い。その結果、室内試験の影響とは異なる結果を示すことも多い。そこに圃場影響試験を実施する意味があるが、今まではほとんど実施されていない。 その理由は影響評価のため圃場環境を均一に設定すること、モニタリング方法の困難さにある。しかしながら、圃場での影響評価手法の開発は今後是非必要である。そこで吸引粘着トラップを主な手法として圃場における薬剤の影響評価を行った。
具体的な例
1.キャベツ畑でアオムシサムライコマユバチの動向を吸引粘着トラップを用いて調査(1998)。
2. キャベツ畑でキイロタマゴバチの動向を吸引粘着トラップを用いて調査(1999)。
3.ダイズ畑で天敵の動向を吸引粘着トラップを用いて調査(1999)
4. ダイズ畑で天敵の動向を吸引粘着トラップを用いて調査(2000)