ダイズ圃場における土着天敵(捕食虫)に対する殺虫剤の影響評価法

試験圃場:6月中旬に定植した圃場(2a)の中央部に0.6mm目のスクリーンを高さ1.5mまで張り、それぞれの中央に吸引粘着トラップを配置し、薬剤処理区と薬剤無処理区とした。

薬剤処理:7月29日にフタスジヒメハムシ、ダイズサヤタマバエの防除を想定してアグロスリン2000倍を散布した(試験1)。また、9月2日カメムシ類の防除を想定してスミチオン乳剤1000倍の散布を行った(試験2)。

調査方法:ダイズ定植時から11月18日まで、試験区毎の天敵の活動状況を確認するため吸引粘着トラップで7日毎のモニタリングを継続した。薬剤散布後は24時間ごとに吸引粘着トラップによって天敵の活動状況を14日間モニターした。
同時に、ハダニとその天敵をモニターするために7日ごとに100複葉をサンプリングし、実体顕微鏡下で各種害虫・天敵の生息数を精密調査を行った(別項)。

結果 

考察                                      
1.ダイズ圃場での天敵−昆虫関連
ダイズ圃場での主要害虫・天敵は図に示すような構成であった。従って、この調査では鱗翅目害虫に関係するキイロタマゴバチ及びハダニの天敵を考察の対象とした。ダイズサヤタマバエとカメムシ類の薬剤による防除は現地圃場では除外することができないと思われる。従ってそのために使用する薬剤がマイナ−害虫の顕在化の原因とならないようにすることが重要である。

主要害虫 主要害虫の天敵
ダイズサヤタマバエ サヤタマヒメコバチ
サヤタマコマユバチ
シンクイムシ類 キイロタマゴバチ
カメムシ類 クロタマゴバチ
マイナ−害虫 マイナ−害虫の天敵
ナミハダニ シナクダアザミウマ
カブリダニ類
ハダニアザミウマ
ハダニバエ
アブラムシ類 アブラバチ
アブラヤドリコバチ
アザミウマ類 ヒメハナカメムシ
アザミウマヒメコバチ
アザミウマタマゴバチ

 2 吸引粘着トラップ捕虫数の評価
トラップの天敵捕虫数は基本的には天敵密度に依存するが、気象条件によって大きく変動する。天敵の密度は餌密度・高次天敵密度・殺虫剤散布などによって変動する。
このような条件の中で殺虫剤散布による影響をトラップの捕虫数で評価することを試た。
このダイズ圃場でのヒメハナカメムシの主要な餌はアザミウマ類であった。アザミウマ個体群の密度はカブリダニ類・アザミウマタマゴバチ・アザミウマヒメコバチの活動による影響も受けている。ヒメハナカメムシ自身の高次天敵としては卵寄生のホソハネコバチの一種が重要であることが判明した。第7,8図に示したようにキイロタマゴバチ及びヒメハナカメムシに対する薬剤の影響はトラップ捕虫数で明確に捉えることができた。

 3 総合考察
1 試験区の設定はほぼ満足できるものであった。(散布までの両区の捕虫数の結果から)
2 薬剤散布時における無散布区への影響は少なかったが、さらに完璧にするためにビニ−ルによる遮断を行って散布する方がよい。
3 気象条件によって圃場レベルの影響評価試験は重大な影響を受ける場合が多いが、解決策はない。
4 薬剤の影響評価試験には試験薬剤散布区・無散布区以外に、天敵全般を完全に除去する標準区(有機鱗剤とピレスロイド剤混合剤)を設定する必要がある。
5 今回、害虫の密度調査は一部で行ったが、短期間(7−14日)での影響評価(直接影響、残毒影響)ではその必要はないと思われた