ウルグアイの人と鳥
鳥は何処でも農作物に害を及ぼす。ウルグアイでも小麦やひまわりを加害する鳩の類は国賊と呼ばれており、果物を襲うオキナインコも嫌われ者である。反対に人間が鳥を利用することもある。番犬の代わりとしてやかましい声を立てるナンベイタゲリ、クビワサケビドリ、オキナインコ、バリケンなどが利用されている。またブラジルでは美しい尾羽や風切り羽が装飾品として古くから利用されているが、ウルグアイ産の鳥にはそれほどの大型美麗種がいないので、幸いにも採集の難を免れている。小鳥の小さな羽毛を利用したイヤリングなど洒落たものを見かける場合がある。
ハドソンの著作には蜂鳥の魅力的な描写が数多くある。ウルグアイでこのアオムネヒメエメラルドハチドリ は春になってアカシアの黄色い花が咲き始めると現れ、ジャスミンの白い花、セイボの赤い花がもっとも盛んになる真夏に活発な活動が見られる。縄張り性が強く、休んでいる時も自分のテリトリーに侵入者が来ると飛び出して威嚇する。太陽光線の関係で虹と同じように観察者が太陽に背を向けているとき、鳥はもっとも輝いて見える。人間を恐れないため、人家の近くに巣を作ることが多い。軒下などは特に多いように思われる。ウルグアイの人々は花を刺す鳥と呼び、ごく自然に接している。ビデオでの飛行中の撮影は大変難しい。止まっているものを写すのは簡単である。しかしハドソンも言うようにこの鳥の魅力を活字で表現することは出来ない。ビデオで表現することも難しいが、文字よりはこの魅力ある鳥の実体に迫ることが出来る。ブラジルのリオデジャネイロの西北に蜂鳥ばかりの鳥類園があることがテレビで紹介されたのを見たことがあり、またロンドンのキュ-植物園には蜂鳥を放し飼いにしているガラス室があるという。日本では奈良県の橿原動物園での飼育が有名であるが、人工的な環境で蜂鳥の美しさがわかるかどうかまだ私は試していない。
ウルグアイの鳥に関する文献はほとんどがモンテビデオにある自然史博物館から出版された1960年代までのものである。文献に収められた標本はほとんどがラプラタ河畔にある博物館に展示されている。新しい資料はアルゼンチンの研究者による断片的なものしかない。1989年に出版されたアルゼンチン・ウルグアイ原色鳥類図鑑が最新のもので、文献一覧もついており便利。この本には現在の生息状況(密度)が5段階に示されており、また分布範囲も地図上に明示されているなど大変親切な本である(T.Narosky & D.Yzurieta (ISBN 950-99063-0-1) Vazquez Mazzini Editores Buenos Aires)。 1995年には同じ著者(Tito Narosky)によりアルゼンチンの100種の鳥という本が出版された。一般向けの解説が100種の鳥に与えられた小冊子であるが、大形の鳥から小鳥までバランスよく選ばれている。現在モンテビデオで自然保護を訴える"Grupo Bosque"に属する Lie.Raul Vas Ferrira(1992)によれば,ウルグアイに関係する鳥類は約400種で、そのうち主として森林に生息するもの175種、牧場にいるもの21種、湿地・湖沼にいるもの150種、海に生活するもの45種であるとしている。18-19世紀にかけて最も学術的に注目されて研究された種としてはセアカカマドドリ、シギ、レアの三種をあげている。最も絶滅が心配されている鳥は大キツツキ、コクカンチョウであり、ウルグアイの鳥類の生息を脅かすおそれのある長期的な要因は開発による湿地の減少であり、現実に土着の鳥類が減少している直接の原因として野良猫の増加・密猟・農薬の影響をあげている。
ウルグアイでは小鳥を籠に入れて飼う習慣が他の国と比べれば非常に少ない。牧畜や漁業に従事する人々が自分で捕まえたものを軒先で飼っている場合や。キオスクなどで街路樹に2ー3種類のヒワ類を飼っている程度である。小鳥は中央露天(フェリア)で5ー6軒の小鳥屋が主に竹籠に入れ盛大に売買しているが、主として外国人が色の美しい小鳥を買っていく程度である。1990年までは国内に生息する小鳥の販売が認められていたが、それ以後自然保護のため売買が禁止された。その結果、国内には生息しない珍しい小鳥がブラジルやパラグアイから取り寄せられ売られるという皮肉な現象が見られるようになった。この国で最も小鳥の売買が盛んな場面は輸出のためである。モンテビデオ郊外のラス・ピエドラスの町には大きな鳥舎を持つ輸出業者がいて、農場などで1羽2羽と捕らえた小鳥を買い上げている。オキナインコ、ナンベイタゲリ、フクロウ、ハヤブサなどの雛は地元の人にも人気のあるペット商品らしい。これらの鳥はやや大型なので放し飼いや足に鎖を付けて飼われる。この小さな町についてはダーウインが次のように触れている。"プラタ河の近辺よりも岩石が多く、丘陵も多かった。名前の通り、正長石の大きな丸い塊から出来ていた。家屋の集団の周囲には2ー3のイチジクの樹があり、平地から100フィートも高い住宅地はいずれも絵のように美しいものであった。"現在はモンテビデオのベットタウンとして小住宅が多く雑然としている。
小鳥を捕らえる方法は万国共通の"おとり+鳥もち"が主流で、大型の鳥では巣を見つけて、雛を捕る。渡り鳥は成鳥を手製の単純なわな(図示)でとらえる方法が主流である。カスミ網などによる組織的な方法は見られない。鳥類の保護思想はカトリックの教えとともに一般に広く行き渡っている。従って都会や田舎でも小鳥を追いかけるようなことはないので、人間に対する警戒心は驚くほど少ない。一方狩猟の伝統もヨーロッパから伝えられているので、狩猟鳥と考えられているウズラ、ハト、カモなどは都市近郊でも田舎でも空気銃によるハンテイングの対象とされ、驚くほど警戒心が強い。社会的には湿原における大型鳥類の保護に対する関心は高く、開発禁止地区の制定などの動きも活発である。アメリカやヨーロッパからのバードウオッチャーの受け入れなども行っている。ウルグアイの国鳥は何かとの問いに答えるのは難しい。農牧に従事する人々はナンベイタゲリ、一般の人々はオルネロ、多少動物に関心のある人はクビワサケビドリ、レアと答えるのではないだろうか。国内の主要都市(各県の県庁所在都市)には必ず動物園がある。そこでの人気者は猿や象などであるが、飼育展示されている数や施設はどこでも鳥類が圧倒的に多く、工夫がこらされている。鳥類は入手が容易であり、飼育の簡単な(食肉性の)鳥が多い。残念ながら、現在日本の動物園で展示されているパンパの鳥は極く少ない。