導入天敵利用によるヤノネカイガラムシの生物防除

 ミカンの大害虫であるヤノネカイガラムシは明治時代日本に侵入し、以来、全国に蔓延した。この害虫はミカン果実の商品価値の低下、枝の枯死をもたらし、生産者は古くは青酸ガス燻蒸、マシン油乳剤等による防除に多大の労力と出費を余儀なくされてきた。戦後は有機りん剤の出現でより的確な防除が行われるようになったが、殺虫剤散布の副次的な影響のためミカンハダニの多発を招き更に大きな負担を背負うこととなった。
(1)1980年西野・高木を中心とした静岡県柑橘害虫天敵利用技術交流団が訪中し、重慶市で2種の寄生蜂を採集することに成功した。
(2)中国で採集された寄生蜂は静岡県及び口之津支場で増殖されその性質の調査が行われた。
(3)有効な寄生蜂はヤノネキイロコバチ及びヤノネツヤコバチの2種類であることが確認され、1981年に長崎県及び静岡県で放飼が行われた。
(4)ヤノネキイロコバチは外部寄生で、年間の世代数は約12−13回。ヤノネツヤコバチは内部寄生で、年間の世代数は5−6回であった。
(5)ヤノネカイガラムシに対する寄生は、ヤノネキイロコバチは主として未成熟成虫までの若齢幼虫に、ヤノネツヤコバチは主に成虫に対してである。
(6)2種の寄生蜂の寄主に対する寄生性や攻撃性の違いなどから、両種の併用による防除効果が高い。
(7)ヤノネカイガラムシに対する防除効果は放飼3年目から顕著な防除効果が認められ、4年目以降ヤノネカイガラムシの寄生密度は要防除密度以下に保持された。

 研究の結果はただちに農水省植物防疫課による全国的な放飼事業として普及に移された。現在10万ヘクタ−ルの日本全国のミカン園に分布を広げ、省農薬によるカンキツ生産のキ−ポイントとして利用されている。従来ヤノネカイガラムシの防除には年2回の有機りん剤散布(約8,000円/10a)が欠かせなかった。現在、天敵による経済効果は少なく見積もって10億円/年程度であり、将来はミカンハダニの減少などの間接的な効果を含め50億円/年以上になるものと思われる。
その後の展開
(1)キ−ペストであったヤノネカイガラムシの生物防除が出来るようになったのでカンキツ害虫の総合防除法の導入に可能性が開ける。
(2)中国(成都市)に生息するヤノネトビコバチ(仮称)の追加導入によってヤノネカイガラムシの完全な生物防除を計ることが望ましい。