4.産卵済みのマ−クは縄張りで  卵寄生蜂チャバネクロタマゴバチ 



チャバネクロタマゴバチはチャバネアオカメムシの重要な卵寄生蜂である。この類の蜂はカメムシの卵を発見すると一連の産卵行動をする。触角でのタッピングによって、寄主認識及び既に寄生されているかどうかの識別を行ない、その後産卵管の挿入、産卵と進む。

 寄主卵に産卵を完了した後、産卵管の先端をカメムシの卵殻に沿って円弧を描くように移動しながら動かして、既寄生を標識するためのマ−キングを行なう。このようなマ−クは同種個体間では有効であるが、異種の卵寄生蜂には無効である場合が多い。また同種の場合でも雌の経歴(既に産卵経験のあるものと無いもの、産卵を抑制されていたもの)によってマ−カ−の効果は異なる事も知られている。ミナミアオカメムシの卵に対する寄生蜂の研究では、マ−カ−は化学物質で一種のフェロモンであることが推測されている。

チャバネクロタマゴバチのマ−キングを観察分析し、またマ−キングされたカメムシの卵を走査電子顕微鏡で観察した結果、マ−カ−は糸状物質で、卵の表面の突起物をつなぎ空中に張られることを確認した。そして、この寄生蜂の雌成虫の触角にはこのような糸を認識するために特殊化したと思われる感覚毛が存在することを認めた。マ−クは雌成虫のタッピングによって切断され、十数回のタッピングの結果、既寄生の認識が不可能となり重複産卵された例もある。また水や有機溶媒による洗浄は糸を卵の表面に密着させ、マ−カ−としての効果は無効となった。これらの事実から既産卵を認識するための主な要素は縄張りによる糸であり、触角の感覚刺毛によって認識されることが推測された。糸がフェロモンの担体を兼ねている可能性もある。マ−ク糸は産卵管の先端に達する毒腺の先端の孔から分泌される。




              産卵中のチャバネクロタマゴバチ                     マ−キンルされた卵の表面
             
              マ−キングの状況                              マ−キング糸の張り方