導入天敵によるクリタマバチの生物防除
 クリの主要害虫であるクリタマバチは中国からの侵入害虫であり、1940年代から全国に蔓延してクリ栽培の最も大きな障害となった。クリは経済的にも、栽培条件からも薬剤散布による害虫防除は困難である。一時はクリタマバチ耐虫性品種によって被害の回避が実現されたが、クリタマバチの中に耐虫性品種にも加害するものが現れ、再び大きな問題となった。そこで害虫の原産地と目された中国から天敵を導入し、生物的防除を計画した。天敵を利用した害虫防除は理論的には合理的で、理想的な防除法である。しかし実際にはコスト及び関連する農作業等との調整で実用化に当っては問題が多かった。そこでこのような矛盾を合理的に解決する事も目標の一つとした。

(1)村上(1979)、岡田・志賀(1980)によって中国から導入したチュウゴクオナ ガコバチを1982年つくば市の果樹試験場内に260頭放飼した。その後野外調 査によりこの天敵の増殖と分散、クリタマバチによるクリの被害程度の減 少過程を追跡した。
(2)クリタマバチとチュウゴクオナガコバチはともに一年一回の発生で複雑な関係を持っている。またクリタマバチの導入天敵と近縁の土着天敵クリマモリオナガコバチが生息しているため、それとの競合や交雑、更に2次寄生蜂の影響等が生物防除の効果に影響する場合があった。
(3)チュウゴクオナガコバチの天敵としての能力はクリマモリオナガコバチに比較して、生存期間(1.5倍)、産卵数(3倍)、産卵管の長さ(1.3倍)等すべての面で高い事が明らかになった。
(4)放飼4年後(1986年)にはすでにクリタマバチによる被害の急激な減少が認められ、5年以降11年目まで被害を完全に抑制することが出来た。
(5)つくば市に放飼された260頭の雌成虫は順調に増殖を繰り返し、1994年現在 関東地方全県と東北、中部地方の一部に分布を拡大した。
 天敵の放飼を農水省植物防疫課の事業として平成5年度から長野、茨城、大阪、徳島の各府県で行っている。また放飼のためのマニュアルを作成し、現場での利用を推進している。この天敵の利用によって殺虫剤の散布が1回削減でき、生産農家の防除負担金は無い。
(1)害虫、天敵とも一年一世代の増殖であるため、今後の害虫の再増殖と、それに伴う天敵の活動を長い目で評価する。
(2)中国グリ、ヨ−ロッパグリ等のクリタマバチ感受性品種の育種素材としての利用が出来るようになる。
(3)天敵の海外からの導入利用技術のモデルとしてデ−タ利用する。