ボ−ルを並べて天敵防ぎ    カキホソガの芸



 植物の葉の中身だけを食べてしまう虫がそれぞれの植物に1ー2種いる。カキの葉ではカキホソガという鱗翅目の幼虫が表と裏の表皮を残して、円く袋状に葉肉を食べる。本来カキの害虫としての地位は低く、大きな害をもたらすことは少ない。ヒメコバチ科に属する寄生蜂がいるためである。
 この虫は蛹化する際、葉の裏に奇妙な繭を作ることで知られている。繭の形は通常のホソガ類のものと変わらない長楕円形であるが、その上に自分の糞を直線的に配置する。繭を作るときにどのようにして自分の糞を上手に並べることが出来るのか、実際に見るまで全く解釈が出来なかった。 
 ビデオの連続撮影によると、老熟幼虫は口器から糸を吐き、左右の葉をやや寄せるように網を作る。作業は内部で行い、次第に網を厚くしてゆく。その間尾部(肛門)から7−10分毎に糞をするが、排糞後直ちにそれをくわえ、網の隙間から繭の外に押し出す行動が見られる。最初は簡単に出来るが、網が厚くなってくると隙間を作るために時間が必要である。幼虫は繭の中で前後に反転しながら絶えず動き回り、均一な繭を作っている。排糞は繭の中央線付近で行われる確率が高いので、繭の外に押し出された糞も直線上に配置される結果となる。
 ちなみにこの糞は幼虫時代のものとは全く異なり、小型の泡が集まって出来た透明なサッカ−ボ−ル状のものでBableと呼ばれる。これが消化管内で作られる過程やその役目についてはまだ何もわかっていない。この糞はSEM(操作電子顕微鏡)で観察するとその表面のくぼみに角状の結晶が付着している。さらにその結晶上に1μm以下のウイルス粒子のようなものが見られる。


糞が直線的に配置されたカキホソガの繭                                                 バブルの微細な状面構造