ヒメハナカメムシ類の卵寄生蜂
 
 ヒメハナカメムシ類は吸汁性昆虫の捕食者として注目され、施設栽培では生物農薬として登録されるほどの人気である。この天敵の死亡要因として共食・クモ類の捕食が知られている。一方全ての昆虫には寄生性天敵がいるとの例に漏れずヒメハナカメムシの卵に寄生する蜂が発見された。ダイズ圃場に生息するヒメハナカメムシの動態調査から卵寄生蜂が発見された。この蜂はホソハネコバチ科に属する微小なもので、以前はParallelaptera属に、現在はErythmelus属に分類されるものとされている。0.5mmほどなので肉眼で見るることはほとんど不可能である。一般にヒメハナカメムシは植物の葉の葉脈の中に産卵し、その先端は外部に露出している。従って寄生蜂はこの卵殻の先端を探し産卵する。ダイズに生息するコヒメハナカメムシは葉の主脈基部に産卵することが多い。この部分をカッタ−ナイフで切り取り、チャック付きビニ−ル袋に入れ、ハチの羽化を待つ。寄生蜂は前翅縁毛が非常に長く、翅表面には刺毛が少なく透明である。触角は特徴のある棍棒状部が灰色、胸部と腹部の一部は黒色で、腹節の前部は透明である、雄成虫の触角には形態的な特徴があり、繋節第2節は環状であることから、小型ではあるが見分けやすい。ホソハネコバチ科の検索表(Anneki and Doutt 1968)からはParallelaptera sp.と同定される。原記載標本は吸引トラップで採集されたもので、寄主は不明とされている。現在この属にはヨ−ロッパから2種、南アメリカで1種が知られている。1940年代に記載された最初のものはビ−トのヨコバイが寄主とされたことがあった。しかし同種のものがビ−トのヨコバイの生息しないスペインなどで発見されたり、その後もビ−トのヨコバイからの羽化が試みられたが、ことごとく失敗している。今回ヒメハナカメムシ卵からの羽化を確認できたことによって、この属は他の3種も含めてヒメハナカメムシの卵寄生蜂である可能性が高くなった。
ヒメハナカメムシの密度や、捕食効果に対してこの卵寄生蜂がどんな影響を及ぼすかについては寄生率の動きなどを明らかにしなければならないが、調査は困難である。簡易的なモニタリング法として吸引粘着トラップがこのような微小昆虫に対しては効率がよい。ダイズ畑での例では卵寄生蜂の捕虫数が増加した後、ヒメハナカメムシの密度が抑制されたように見える。餌不足のためでないことはアザミウマの生息密度がそれほど変化していないことから明らかである。一方途中からではあるが卵寄生蜂の捕虫数はヒメハナカメムシの減少と前後して増加している。
 


ハナカメムシの卵寄生蜂

形態


ダイズ畑でのハナカメムシ類と関連生物の生活


      広食性生物    餌      狭食性生物

卵寄生蜂 ハナカメムシ アザミウマ アザミウマヒメコバチ
                      アザミウマタマゴバチ
               
      カブリダニ   ハダニ ハダニアザミウマ
                      ダニタマバエ
              ヨコバイ 卵寄生蜂

花粉
ハナカメムシ類の種構成と性比

生物種のサンプリング法と効率
ハナカメムシ アザミウマ ハダニ 寄生蜂
吸引粘着トラップ
洗浄法
葉の顕微鏡による調査 

棲息数の変化

 ヒメハナカメムシ寄生蜂
 ヒメハナイカメムシ
 アザミウマ類
 アザミウマ類寄生蜂
圃場生態系における捕食性の天敵の定着や活動は天敵の餌がどれぐらいあるかに左右される。そのような特性に基づいて捕食性天敵を大別する。
A 餌に対する選択性の高い捕食虫
餌(害虫)がある程度高密度になるまで定着しない。
例 ハダニケシハネカクシ   ハダニ
  ハダニアザミウマ ハダニ
ショクガタマバエ     アブラムシ
  ヒラタアブ        アブラムシ類
  カゲロウ アブラムシ類
  テントウムシ       アブラムシ・カイガラムシ

B餌に対する選択性の低い捕食虫
害虫が低密度でも他種類の餌を利用して定着している。
例 ヒメハナカメムシ     アザミウマ・ハダニ・トビムシ
  カブリダニ        アザミウマ・ハダニ・ヒメハナカメムシ・花粉
ハプロスリップス
  クモ類
従って総合防除で利用し易い捕食虫はBのタイプである。害虫の密度が低い時期にも他の無害な餌を利用して定着しているで害虫の増加に直ちに対応できる。圃場内の害虫でない昆虫の餌としての重要性を認識すべきである。従って、薬剤を使う場合には天敵だけではなく、餌に対する影響も考慮する。このタイプの天敵利用は周辺植生を含めて考える。天敵の涵養地としてバンカープラント、防風樹、畔草,境木等を作る。涵養場所からの天敵の移動を人為的に行うことによって捕食虫による効果発現を狙う。圃場への誘引・涵養場所からの追い出し(草刈り,除草剤の使用)
涵養場所の植生の更新によって新しい餌を確保する。
この場合生物要因としてその天敵の移動能力・高次天敵などに注意する必要がある。

Aタイプのものは高密度害虫の密度低下に力を発揮するので一見有効に見えるが、害虫の発生した後で定着するので被害を防止する力は弱い。このタイプのものは施設農業の生物農薬として有効なものが多い。


天敵名  移動能力 増殖力 食性の幅 高次天敵 薬剤の感受性
テントウムシ
カゲロウ
ヒメハナカメムシ
ハダニアザミウマ
ハダニケシハネカクシ
ハダニバエ
ヒラタアブ
クモ類
カブリダニ
ハプロスリップス

寄生蜂についても同じような傾向が見られる。

寄主範囲の狭い天敵,
オンシツツヤコバチ
サムライコマユバチ
ヒメバチ


寄主範囲の広い天敵
キイロタマゴバチ
ヒメバチ
タマゴクロバチ
タマゴトビコバチ
ハダニアザミウマ
ハダニバエ
アザミウマヒメコバチ
アザミウマタマゴバチ
アブラバチ
アブラヤドリコバチ
ヒラタアブ
ホソハネコバチ
ツヤコバチ

クモ類
カブリダニ
ヒメハナカメムシ類
ハプロスリプス
カゲロウ
テントウムシ

鱗翅目
カメムシ類
ハダニ
アザミウマ類
アブラムシ類
ヨコバイ類
コナジラミ類
トビムシ類

タマゴクロバチ

タマバチ
ヒメハナタマゴバチ
タマゴクロバチ
ヤドリトビコバチ