2.天敵生物のモニタリング法(サンプリング法)  

 天敵の利用に当たってはまずその生息状況について定性的な調査を行ない、さらに継続的にをすることも時には必要である。天敵の種類・構成は時期によっても地域によっても大変違う。昆虫にはその発育期の各々に色々な種類の天敵がいて、その生存をおびやかしている。卵の時期には卵を専門にねらう寄生蜂、捕食虫幼虫、蛹にはまたそれぞれ決まった天敵が狙っている。成虫ですらクモやハチなどの捕食虫によって捕らえられる。これらのものをすべて調査する事は不可能であるから、鍵になる天敵を決めて殺虫剤の影響や寄主密度による変動をとらえる。

(1)寄主採集による調査 
 圃場に生息している調査対象の害虫を採集して、室内で寄生状況を調査する。この場合、採集場所・時期・寄主の発育期の記録が重要である。採集した寄主の損傷、摂食不足による死亡などの問題がある。調査の目的に応じて調査法を決める。 

(A)寄生性天敵  
 A)羽化調査:羽化装置に寄主を入れ、天敵が羽化するのを待って寄生数を記録する。寄主の数を計数し、寄生率を求める。羽化装置には色々あるが、大量の場合には専用の羽化箱(上面がガラス板のもの、試験管をかぶせて光に集まるようにしたもの)を用いる。少量の場合には試験管にチャック付きポリ袋をかぶせたもの、チャック付きポリ袋そのもの、試料をサランラップで包む方法などがある。

アザミウマ類:
 卵寄生蜂は産卵部位を取り、小型のシ−ル付きポリ袋に入れ、直射光のあたらない、明るい場所に置く。寄生蜂は小型なので実体顕微鏡の下で丹念に見る。幼虫寄生蜂はアザミウマ幼虫の寄生している葉を採取し、密閉した容器に入れる。蛹化する時、隙間に入り込む性質があるので、飼育容器の中にろ紙にしわをつけて入れておくと能率的に採取できる。

アブラムシ類・キジラミ類・コナジラミ類:
 アブラムシ類の寄生蜂は2次及び高次寄生蜂も多い。したがってどの様な羽化装置を使った場合にも、羽化調査を毎日または一日おきに行い、羽化順序を記録することが重要である。またコロニ−のままで羽化装置に入れた場合には、捕食性天敵が紛れ込んでいて、関連した寄生蜂が羽化することが多いので注意する。

カイガラムシ類・コナカイガラムシ類:
 採集は雌成虫の産卵開始時期が好適であるが、雄成虫の羽化が10日ほど早いので、雄に寄生するものまで採集するにはやや早めに採取する。葉に寄生するカイガラムシはあまり早く採取すると、餌不足で死亡し寄生率か過小評価される。他のカイガラムシと混在すると寄生蜂の同定が困難になるので、なるべく同一種のカイガラムシをはさみやナイフで切り離し、他の種類が入らないように試料を作る。 秋になると発育ステ−ジが重なるので寄生蜂の採集は容易になる。いずれの場合にも目的とするカイガラムシ以外のカイガラムシや、樹皮下に潜っている小型昆虫の寄生蜂も同時に羽化するので注意が必要である。寄主との関係を明確にするためには一頭ずつ分離して羽化させる必要がある。

カメムシ類:
 野外で被寄生卵を発見することは希れであるが、採集できた場合には管瓶に保存して寄生蜂の羽化を待つ。寄生バエの採集には成虫を捕らえ、通常の方法で飼育する。

ヨコバイ類:
 成虫に寄生するものはカマバチ・ネジレバネだけであるから、検鏡すれば発見できる。卵寄生蜂を対照とする場合には産卵された可能性のある新梢や葉から他の昆虫を注意して取り除き、羽化装置に入れる。卵の存在を実体顕微鏡(暗視野照明)で確認しておけば確率が高くなる。

鱗翅目:
 幼虫は大型のものでは4−終齢幼虫を採取し、充分に餌を与える。蛹になったものは大きさに合ったバイエル瓶などに入れ、パラフイルムで口を覆っておく。幼虫から脱出する天敵を大量に捕らえるには大型羽化箱を使う。小型のハモグリガ類では被害葉を採集し、1枚ずつチャック付きポリ袋に入れて羽化を待つ。大きすぎる場合には被害部全体を切り取る。蛾の卵を発見した場合にはそのまま採取し、管瓶などに入れて保管する。羽化した寄生蜂を採取した後、卵の内部を調査することが重要である。多寄生のタマゴバチの中には雄が卵内で交尾を済ませ、卵からは羽化しないものもある。

タマバチ類:
 害虫の存在がはっきりしているので、虫えいを採取して羽化装置に入れる。この場合も、害虫以外にゴ−ルに随伴して生活するいろいろな昆虫の寄生蜂が出現することに注意する。

タマバエ類:

甲虫類:
 甲虫類の幼虫を飼育することは難しい。したがって普遍的な方法はない。ブドウトラカミキリは剪定枝を短く切り、大型のポリ袋に入れて保存すれば、8月にカミキリムシの成虫が羽化し、その後寄生蜂が羽化する。  

B)分解調査:

 顕微鏡下で寄主に寄生している寄生性天敵の卵、幼虫、蛹を記録する。また、天敵の脱出孔の形態(アブラバチ、クロタマゴバチ)、蛹室(ヒメコバチ)、脱皮殻(ヒメコバチ)、蛹糞(ツヤコバチ)、虫体体表の産卵管挿入痕(ツヤコバチ、トビコバチ)などを調べると有効な場合がある。 

(B)捕食性天敵  

 A)捕食痕調査
 顕微鏡下で寄主に残っている捕食虫の食害痕を調べる。ハダニの卵の場合には吸汁痕(SEM)で捕食虫を区別することが出来る。カイガラムシの被捕食痕も捕食虫の種類によって特長がある。

(2)寄主を利用する方法 

(A)寄主暴露法 カメムシの卵(寄生蜂)やコナカイガラムシ(寄生蜂)、カイガラムシ(寄生蜂)などを自然の生息場所に一定時間暴露し、誘引し、産卵させる。自然状態で寄主を発見した場合には、観察によって天敵の攻撃を発見できることが意外に多い。特にカミキリムシ、タマムシ、ボクトウ、スカシバなどの枝幹害虫では最も能率的な手段である。

(B)被害植物の出す化学物質トラップ
 ハダニなどでも最近研究されているが、ポット植えの植物上で害虫に食害させ、傷ついた部分から出る化学成分で天敵を誘引するものである。大半のハダニ天敵、キクイムシなどはこの方法が適用できる。具体的には塩尻ら(2002)による”植物−植食者−天敵相互作用系における植物情報化学物質の機能”(応動昆 Vol 46 117−133)を参考にする。

(C) 生理活性物質トラップ
 害虫の出す各種生理活性物質は天敵にとって寄主の存在を知るカイロモンにもなっている。クワシロカイガラムシの性フェロモンはナナセツトビコバチを誘引する。アカマルカイガラムシ(ツヤコバチ)、ナシマルカイガラムシ(ツヤコバチ)等でも利用できる。またカメムシの集合フェロモンはマルボシハナバエ、チャバネクロタマゴバチを誘引する。  

(3)寄主を利用しない方法 

(A)吸引粘着トラップ 
  トラップの構造は直径8cm四枚羽のベンチレ-タ-を硬質塩化ビニルの容器(12*12cm)で囲み、吸引した空気を7*7cmに圧縮し、粘着板に衝突させる。この容器はベンチレ-タ-に対する雨水の侵入を保護する役目もする。この捕虫機を鉄製の支持台につり下げ、その上に粘着面を下にした20*20cmのガラス板を置く。
 粘着面が下を向いているので降雨の場合でも粘着力の低下はない。トラップの開孔部が天敵の活動空間に来るようセットする。捕虫機の吹き出し口とガラス板の間は10-15cmになるよう調節する。このトラップは夜間も電源を入れ継続して運転する。トラップの吸引空気量は1秒間約20リットルである。
 計数は実体顕微鏡の下で行う。粘着板上の天敵を保存したい場合には有柄針で取り、50ccビ-カ-の内壁にこすりつけておき、後にベンゼンを入れ15-30分間静置する。その後ゴム球付きピペットで空気を吹き込み洗浄し、虫が底に落ちた後にベンゼンを捨て70%アルコ-ルを加えて保存する。
 このトラップによる捕虫数の解釈はそれぞれの天敵について違う。捕虫数は密度の他に気象要因に左右されるので、圃場における天敵の密度を推定するのは困難な場合が多い。しかし捕虫数が天敵の活動量を示す利点がある。
 実際圃場内に天敵が存在しても風や降雨などによって活動が抑制されれば、その期間にはトラップへの捕虫はない。 同時に寄生活動も低下するので実質的には天敵が存在しなかったと評価することが出来る。このような特性を活かした利用場面が考えられる。また薬剤やその他の防除を行った場合に天敵がどの様な反応を示すかを継続調査する場合にも、このトラップは有効に使用できる。継続して運転することによって省力的に低密度の小型天敵をモニタ-出来るのがこの方法の特徴である 

(B)カラートラップ
  水盤と粘着板に分けられる。黄色水盤はアブラムシの誘引に使われ、その際他種類の天敵も捕らえられることから利用されることもあるが、分別が困難で時間的な制約のある場合には難しい。粘着板は最も実用化されているモニタ-トラップであろう。主として施設内の生物農薬の利用の際、寄主密度(スリップス・ハモグリバエ・コナジラミ)と寄生蜂の活動状況を同時に推定するための手段として有効である。害虫や天敵によってトラップの色を変える必要がある  

(C)ビーテイング法  
  中型-大型の捕食虫に簡便で有効である。受ける道具はネットなどいろいろあるので、前もって効率を調べておくことが必要である。選別に時間がかかること、低密度の虫ではサンプル数が多くなるという欠点がある。ハダニ類の捕食虫に利用されている 

(D)目視法(カウント法)
  大型の捕食虫に適していて、果樹の天敵では造巣性のクモ類などで適用された例がある  

(E)マレ-ゼトラップ
  1-2ヶ月の継続的な調査には威力を発揮する。対象としては移動力の大きな天敵 

(F)ピットホ−ルトラップ
  地上徘徊性の捕食虫を捉えるため、地面に穴を掘り容器を埋め込んで虫の落下するのを待つ。オ  サムシの採集などでは餌を用いる場合もあるが、天敵の場合にはホルマリンなどの殺虫成分を入   れ共食いを防ぐ。
(G)密源植物(花)
  寄生蜂・捕食虫調査では春先の菜の花、6月のクリ、ニンジン、パセリなどの花・蜜を求めて飛来す る天敵を調べるもので、寄生蜂ではヒメバチ類、ヤドリバエ類、捕食虫ではアシナガバチ類、アブ類、等。 

(H)燻煙捕虫法 

(I)ブラックライト

(J)ロ-タリ-トラップ

(K)バリアトラップ(ウィンド-トラップ)

(4)農作業を利用する方法   
 農作業の中で収穫がもっとも大量に害虫や天敵も集めるものです。集荷場には害虫や天敵も同時に集められます。これを利用してその地域の天敵のモニタリングができます。その例としてチャの摘採後の工場の生葉置き場、果樹の収穫後の選果場、整枝剪定・収穫残渣の処理場所等である。趨光性を利用してそこで天敵を採集するのは能率がよい