室内試験
試験の原則は次のとおりである。実用最高濃度、若齢幼虫などの感受性ステージを供試する、いわゆる最悪条件下で試験を行う。ガラス、葉、砂などに薬剤を処理し、ドライフィルムを形成し、それに試験動物を接触させ、死亡率を調査する。生存個体が認められる場合は、産卵率、寄生率などを調べ、得られた結果をカテゴリーに分類する。また、試験物質の過大評価を防ぐために、試験容器内を換気することによって試験物質の揮発成分の影響を除外する。
オンシツツヤコバチに対する残毒試験
薬剤処理したトマトの葉を試験動物に暴露させる接触毒性試験。
①試験動物
A.種名:オンシツツヤコバチ Encarsia formosa
ツヤコバチ製剤を使用する。これはツヤコバチに寄生されたコナジラミ蛹(マミー)を紙製のカードに貼り付けた状態で供給される。
②試験作物
A.作物名:トマト(施設栽培)
B.施肥、一般管理:慣行に準じ、殺虫剤による防除は行わない。
C.試験薬剤処理:試験薬剤を実用濃度の最高濃度に希釈し、作物の生育状況に見合った処理量、背負式全自動噴霧器などで散布する。
③試験方法
A.供試虫の準備
試験機関に到着後、供試2日前まで5℃の低温条件下で管理した後、25℃条件下に移す。供試前日に、カードから既に羽化している成虫を取り除いて1枚ずつガラス製バイアル管に入れ、紙栓で塞で25℃の恒温室内に置く。その後24時間以内に羽化した成虫を、本試験の供試虫とする。
B.試験容器
マンジャーセルを用いる。縦5cm×横10cm×厚さ1cmのアクリル板に直径3cmの穴を開け、縦5cm×横10cm×厚さ0.3cmのガラス板2枚でアクリル板を挟む。アクリル板の内壁にツヤコバチが逃亡しないようテトロンゴースを内側から張った直径0.5cmの換気穴を3本設ける。換気穴の1本に給水用の蒸留水を湿らせた脱脂綿を差し込む。また、アクリル板の内壁に80%蜂蜜溶液をしみ込ませたろ紙片(0.5cm×1.5cm)を貼ってツヤコバチの餌とする。
C.接触方法
各所定日に、各株の中位葉からトマトの単葉を無作為に選び採取し、室内に持ち帰り、切断面を湿った脱脂綿で包み、アルミ箔で覆う。供試トマトは摘心し、適宜側枝を除去する。
試験容器を構成するガラス板、直径5.5cmのろ紙、葉裏を上にしたトマト葉、アクリル板の順に置き、ツヤコバチを約15頭、バイアル管から葉上に払い落とし、ツヤコバチが葉面上を歩行することで葉面上に形成された試験薬剤に接触するようにする。ガラス板を上から被せ、試験容器の両端を輪ゴムで留める。
D.管理方法
温度22℃、日長16L-8D、湿度70〜80%条件の定温器で管理する。試験薬剤の揮発成分の影響を除外するため、各容器はゴムチューブでエアポンプに繋ぎ試験期間中、試験容器内の空気を定温器外に排気し続ける。
E.調査方法
接触処理3、5および7日後に、実体顕微鏡下で生死虫数を調査する。
④評価方法
接触7日後の死虫率についてAbbottの補正式を用いて補正死虫率を算出する。IOBCヨーロッパ支部の影響カテゴリーで「影響なし」と言われる補正死虫率が30%以下になった時点までを残毒期間とする。
得られた残毒期間を、IOBCヨーロッパ支部の残毒期間のカテゴリーを参考にして分類する。
IOBCヨーロッパ支部の残毒期間のカテゴリー
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カテゴリー 残毒期間
参考
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1 影響なし <5 日
short lived
2 影響小 5〜15 日
slightly persistent
3 影響中 16〜30 日
moderately persistent
4 影響大 >30 日
persistent
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直接接触毒性試験
残留毒性試験 増殖能力試験
ヤマトクサカゲロウに対する影響試験
試験は、幼虫に対する接触毒性試験と、接触暴露された幼虫の羽化後の産卵に対する影響試験からなる。
①試験動物
A.種名:ヤマトクサカゲロウ Chrysoperla
carnea
B.飼育管理方法
餌:幼虫;市販小麦粉で飼育しているコクヌストモドキ
Tribolium castaneum の卵
成虫;酵母自己消化物AY-65と蜂蜜の2:3(重量比)混合物
飼育容器:卵〜蛹;24孔マルチウェルプレート
成虫;直径、高さ12cmの腰高シャーレ
C.飼育条件;温度25℃、日長16L-8D
②試験方法
(幼虫接触毒性試験)
A.供試虫の準備
飼育中のクサカゲロウから産下24時間以内の卵を採取し、96孔マルチウェルプレートに1卵ずつ移す。さらに餌としてコクヌストモドキの卵約10mg加え、22℃、日長16L-8Dの定温器で管理し、ふ化した1齢幼虫を供試する。
B.試験容器
31cm×37cmの長方形のガラス板、ガラス板と同じ大きさで30孔(5×6)の穴を開けたアクリル板、および外径が穴と同じ長さのアクリル製リングを準備する。ガラス板とアクリル板を重ね合わせダブルクリップで留め、リングをガラス板との間に隙間ができないように穴に差し込む。
C.処理方法
室内用農薬散布器を用いてガラス板に実用濃度の最高濃度に希釈した試験物質溶液を均一に散布し、溶液が完全に乾いたら、試験容器を組み立てる。このとき、リング内からのカゲロウの逃亡を防ぐためにリング内の内壁にタルク(Talc
和光純薬株式会社)を塗る。
クサカゲロウの幼虫を1孔当たり1頭ずつ移し、約20mgのコクヌストモドキの卵を加える。
D.管理方法
温度22±1℃、日長16L-8Dの定温器で管理する。試験物質の揮発成分の影響を除外するために、ミニポンプを用いて定温器内を換気する。生存虫には、適宜コクヌストモドキの卵を追加して与える。
E.調査方法
供試虫が蛹化するまで毎日、成育ステージごとに、生存・死亡の各個体数を調査する。
(産卵に対する影響試験)
A.供試虫の準備
幼虫試験で生存した個体について、羽化直前の蛹を腰高シャーレに移す。
B.試験容器
直径12cm、高さ12cmの腰高シャーレ。底部にろ紙を敷き、開口部を1mmの黒色ネットで覆う。
C.管理方法
幼虫試験と同様に、温度22±1℃、日長16L-8Dの定温器で管理する。餌として酵母自己消化物AY-65と蜂蜜の2:3(重量比)混合物を与える。また給水用に蒸留水を含ませた脱脂綿をフィルムケースに入れてシャーレ内に置く。
D.調査方法
産卵を確認してから、1週間に2回、連続4週間(計8回)行う。各調査日に供試虫の雌雄別の生死虫数と容器内に産下された総産卵数を調査する。また、ネットに産下された卵について、200卵以下のときはすべての、200卵以上のときは任意に選んだ200卵を96孔のマルチウェルプレートに1孔当たり1卵ずつ移す。コクヌストモドキの卵を約20mg、孔に入れコピー用紙を貼って蓋をし、引き続き定温 器で管理する。7日後にふ化状況を調べ、ふ化率を求める。総産卵数にふ化率を乗じ、有効産卵数を算出する。各調査時と、その次の調査時の雌生存虫の平均個体数で有効産卵数を除して、1雌成虫当たりの平均産卵数を求める。
③評価方法
Abbottの補正式を用いて羽化前の補正死虫率(M)、1雌成虫当たりの合計産卵数の対無処理比(R)をそれぞれ求め、次の式からE値(Reduction
beneficial capacity)を算出し、IOBCヨーロッパ支部の影響カテゴリーに従って影響の程度を分類する。
E=100−(100−M)×R
IOBCヨーロッパ支部の影響カテゴリー
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カテゴリー 分類
E値
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1 影響なし <30 %
2 影響小 30〜79
%
3 影響中 80〜99
%
4 影響大
>99 %
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間接接触毒性試験
増殖能力試験