果樹害虫の中で飛来性の害虫や枝幹害虫は薬剤防除が難しい。防除のために微生物の利用が考えられた例は吸蛾顆に対する細胞質多核体ウイルス ナカイガラムシに対する紫赤きょう、ゴマグラカミキリに対する寄生性線虫などである。 特に寄生性線虫の利用はこの線虫の大量生産が確立されたこともあって、今後大いに期待できる。対象害虫もゴマタラカミキリムシに限らず、鱗翅目害虫に対しても有効であり、害虫との接触方法について工夫すれば難防除害虫対策の大きな力となり得る。 

 果樹における薬剤抵抗性害虫の発生の例は、ハダニ類を除いては少なかった。最近ではワタアブラムシやリンゴのハマキムシ類、カンキツのミカンハモグリガなどがある。これらの害虫は作用特性の異なったピレスロイド剤やIGR剤の使用によって当面問題は少ないが、将来抵抗性がつくことが予想される。 ハダニに対してはカブリダニの生物農薬化が計画されている。薬剤抵抗性対策として、殺ダニ剤に替えて一般果樹園で使うのは荷が重く、ブドウ、カンキツなどの施設での使用に限られる。ハダニに対しては天敵微生物(糸状菌・放線菌など)の利用も重点的に考えるべきであろう。 

 ハマキムシ、シンクイムシ、ハモグリガなど主要害虫は性フェロモン使用による交信攪乱防除が実用化の段階に入っている。使用できる圃場の条件に制限があること、潜在害虫が表面化するなど欠点があり、全面的に殺虫剤に替える事は出来ない。減農薬や薬剤抵抗性対策としての意味が大きい。 散布者の健康問題などから、施設内での薬剤散布を回避するために生物農薬が求められ場合も多い。ミカンでは特にハウス栽培が盛んで、時期外れに害虫が発生し、防除に苦労する。ハウス内での薬剤散布は特に敬遠したくなるのが人情である。ハウス内ではハダニ、コナカイガラ、アブラムシの発生が多く、時にはケムシ類の発生やコナジラミ、アザミウマ等の異常発生も見られる。現在の所は薬剤散布の完全無人化、自動薬剤散布装置の開発等の方法がいろいろ考えられている。しかし害虫が薬剤に抵抗性をもってしまった場合には無力である。生物農薬としてハウス内で有望なものはハダニ、アブラムシに対する捕食性昆虫、捕食性ダニであり、コナカイガラムシに対する寄生蜂、アザミウマに対するハナカメムシ、鱗翅目幼虫に対する寄生性線虫なども期待される。次世代にしか効果の出ないウイルス、 糸状菌、原虫等は効果が期待できない。 第3のグル−プで生物農薬が有効な働きをするものは少ない。その理由は天敵による死亡はすでに有効な天敵が存在する場合には加算的な効果ではなく、一定の死亡率の中での競合となりやすいからである。しかしながらこのグル−プでは何らかの原因で天敵が減少した場合に、それをすばやく補充するために、天敵を増殖して配布できる体制を作る必要がある。これも広義の生物農薬といえるが、商業ベ−スに乗せるのは難しい。 

生物農薬の将来 
合成殺虫剤による防除ををすべて生物農薬や他の方法に替えることは出来ないし、その必要もない。合成殺虫剤の持つ利点を活かし、短所を補うような使い方、または生物農薬を主として、合成殺虫剤を補助に使うことが目標となる。生物農薬の研究が始められてすでに30年以上経ったが、実用化されたものはごく一部に過ぎない。その原因はどこにあるのだろうか?一口にいうと価格が高く、効果が安定しないためである。生物農薬普及の鍵は次の様な点が考えられる。生産コスト:天敵を量産するためのコストで餌(培地)が人工的なものであれは安く、生物であれば高くなる。昆虫ウイルスやタマゴバチ等では現在人工餌(培地)に移行しつつある。流通コスト:天敵は生きているので時間とともに死亡し、効果が低下するものが多い。昆虫ウイルスやバクテリアのように変化の少ないものでは安く、寄生蜂、捕食虫などは保存のための低温施設が必要なので非常に高くつく。使用コスト:生物農薬を園地に処理する時、薬剤散布と同じ方法なら安く、特別な方法を要すると高くなる。線虫等は移動力が少ないので特別な処理がいる。捕食虫も機械で扱うことは困難なので高くつく。寄生蜂は自力で移動 できるので放飼地点に置くだけ(他の昆虫に捕食されないような保護は必要)ですむので安い。生物農薬は一般的に特定の害虫に対して効果が高いが、その他の害虫には効果がない場合が多い。従って生物農薬の種類や回数を増やさなければならないのでコストは必然的に高くなる。