薬剤の天敵に対する影響評価

病害虫防除や雑草防除のために農業生態系で使用される農薬が広く対象害虫以外の生物に与える影響を把握することは重要である。
1.農業生態系では主として害虫の天敵と目される生物に対して影響が少ないことがIPMで土着天敵の利用を中心とする場合には重要な点である。また、捕食性天敵に対しては餌となる昆虫類(だだのムシ)に対する影響も、食物連鎖の観点から重要である。水田では水系を通じて農業生態系外への流出・ドリフトなども考えられるが、天敵という視点からは重要性は低い。
2.一方、農薬登録上の要件として、一連の生物毒性の評価の中に天敵が加えられることが2001年に決定された。今後新規登録・更新などの場合、その農薬が使用される場面に生息する2目3種の天敵の影響評価調査が要求されている。国際的にもIOBC/OECD等が関係して評価のガイドラインが整備されつつある。
3.次に施設栽培のために開発された生物農薬の合理的な使用技術を確立するためにもこの種の影響調査結果は重要な意味を持つ。
現在このように各方面から影響評価の実施が要望されているが、実行上の技術的問題点として、試天敵の選定、実施機関、圃場試験法の開発などの点で数多くの問題を抱えているのが実状である。
ここでは各作物別の供試天敵の選定の問題について大まかな目安を述べる。これは1999年度に全国の研究者からアンケ−ト形式で答えていただいたものに基づいている。 

薬剤の影響評価が必要な果樹害虫の土着天敵

害虫名  天敵名    学名
ヤノネカイガラムシ ヤノネキイロコバチ Aphytis yanonensis 
ヤノネツヤコバチ Coccobius fulvus 
ヒメアカボシテントウ Chilocorus kuwanae 
イセリアカイガラムシ ベダリアテントウ Rodolia cardinalis
ルビーロウムシ   ルビーアカヤドリコバチ Anicetus beneficus 
ミカントゲコナジラミ  シルベストリーコバチ Encarsia smithi   
ヒメコナカイガラ ルリコナカイガラトビコバチ Clausenia purpurea 
カイガラクロバチ Allotropa burrelli 
ミカンワタカイガラ ミカンワタカイガラトビコバチ Microterys ishii  
ワモンカイガラトビコバチ  Anicetus annulatus 
ミカンマルカイガラ ミカンマルカイガラキイロコバチ Aphytis cylindratus  
ヒトスジトビコバチ Comperiella unifasciata 
ナシマルカイガラ   キイロクワカイガラヤドリバチ Aphytis vandenboschi 
ミカンコナジラミ Encarsia aurantii
Encarsia citri
ミカンハダニ  ニセラーゴカブリダニ Amblyseius deleoni 
キアシクロヒメテントウ Stethorus japonicus 
ケシハネカクシ           Oligota yasumatui
ハダニアザミウマ  Scolothrips takahasii 
リンゴワタアブラムシ ワタムシヤドリコバチ Aphelinus mali 
キンモンホソガ キンモンホソガトビコバチ Holcothorax testaceipes
ハマキムシ類 ハマキサムライコマユバチ Apanteles adoxophyesi 
ミダレカクモンハマキ キイロタマゴバチ Trichogramma sp.
ナシチビガ コマユバチ  Apanteles sp. 
クワコナカイガラムシ     Pseudaphycus malinus 
フジコナカイガラ    フジコナカイガラヤトリコバチ Anagyrus fujikona  
コナカイガラクロバチ Allotropa subclavata
ウメシロカイガラムシ チビトビコバチ  Arrhenophagus albitibiae
クリタマバチ  チュウゴクオナガコバチ  Torymus sinensis 
                           

次に、特に試験法および試験評価法の整備が進んでいるヨーロッパの天敵影響試験法とその評価方法について説明する。また、当会研究所で行っている試験の一部を事例として紹介する。第1ステップは薬剤の影響評価法そのものの考え方である。まず、均質な供試虫と安定した環境条件の下で室内試験を3種以上の天敵を対象として実施する。その結果影響の少ないと評価されたものは圃場レベルでの使用に問題はない。室内試験での評価が影響ありとされた場合には、施設栽培での残留影響評価を主体とした評価試験を実施し、施設内での影響が少ない使用法を検討する。また、野外試験では捕食性天敵及びマイナ−害虫天敵に対する実用濃度での影響を評価し、IPMに組み込む可能性を探る。
 影響の評価は連続階層試験で行われる。主に室内試験、半野外試験および野外試験からなり、通常室内試験から始まり、影響が認められない場合はその時点で終了し、認められた場合は次の段階に進み評価する。


農薬の影響試験のための供試天敵リスト
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随時購入できる天敵 購入先
コレマンアブラバチ Aphidius colemani
エルヴィアブラバチ Aphidius ervi
ハモグリコマユバチ Dacnusa sibirica
イサエアヒメコバチ Diglyphus isaea
ヒメコバチの一種 Hemiptarsenua varlcornis
オンシツツヤコバチ Encarsia formosa
タバココナジラミツヤコバチ (Eretomocerus californicus
アワノメイガタマゴバチ Trichogramma ostriniae
キイロタマゴバチ Trichogramma dendrolim
ヨトウタマゴバチ Trichogramma evanescens
オウシュウヒメハナカメムシ Orius leavigatus
ナミヒメハナカメムシ Orius sauterri
タイリクヒメハナカメムシ Orius strigicolis
ショクガタマバエ Aphidoletes aphidimyza
ヤマトクサカゲロウ Chrysoperla carnea
ナミテントウ (Harmonia aryridis
チリカブリダニ Phytoseiulus persimilis
デゲネランスカブリダニ Amblyseius degenerans
ミヤコカブリダニ Amblyseius californicu
ククメリスカブリダニ Amblyseius cucumeris
トゲダニ Hypoaspis aculeifer

小規模飼育または分譲によって得られる天敵

天敵名  増殖源分譲依頼先  増殖昆虫 
ルビーアカヤドリコバチ Anicetus beneficus 長崎県果樹試験場 ルビ-ロウムシ
クワコナカイガラクロバチ Allotropa burrelli 鳥取県果樹試験場 クワコナカイガラムシ
ニセラーゴカブリダニ Amblyseius deleoni 果樹試験場カンキツ部 ハダニ類
ケナガカブリダニ Amblyseius womersleyi 野菜茶業試験場 ハダニ類  
ブランコヤドリバエ Exorista japonica 蚕昆研 アワヨトウ
クワコナカイガラヤドリバチ Pseudaphycus malinus 鳥取県果樹試験場 クワコナカイガラムシ
フジコナカイガラクロバチ Allotropa subclavata 福岡県農業研究センタ- フジコナカイガラムシ
チャバネクロタマゴバチ (Trissolcus  plautiae 果樹試験場 チャバネアオカメムシ
ハリクチブトカメムシ Eocanthecona furcellata 四国農試  ハスモンヨトウ
カメムシタマゴトビコバチ Ooencyrtus nezarae 九州農試 
ホソヘリカメムシ ナミテントウ Harmonia axyridis 株式会社クボタ 人工飼料
ヤマトクサカゲロウ (Chrysoperla carnea) 日植防   コクヌッストモドキ


野外から大量に採集できる天敵



ヒメアカボシテントウ(Chilocorus kuwanae)
3-5月 ウメ・サクラなどウメシロカイガラムシ多発生地で成虫を採集、5-6月には幼虫を採集する   

キアシクロヒメテントウ(Stethorus japonicus)
9-10月 ミカンハダニ多発園でビ-テングによって成虫・幼虫を採集

ハダニカブリケシハネカクシ(Oligota yasumatui)
7-9月 ハダニの高密度の寄生植物のポットを林縁部に置くとハネカクシの飛来が多い

ハダニアザミウマ(Scolothrips takahasii)
8-10月 クズ・メ類・ナシ園等のナミハダニ多発地 で寄生葉を採集し、室内で採集する

ワタムシヤドリコバチ(Aphelinus mali)
7-9月 リンゴワタムシ多発園 でリンゴワタムシのコロニ-を採集し、羽化装置に入れ成虫を採集する

キンモンホソガトビコバチ(Holcothorax testaceipes)
7-9月 キンモンホソガ多発園で寄生葉を採集し、羽化装置に入れ成虫を採集する

ハマキサムライコマユバチ(Apanteles adoxophyesi)
5-8月 茶摘採時期に製茶工場で明り取りの窓に集まる寄生蜂を吸虫管で採集する

アオムシサムライコマユバチ(Apanteles glomerata)
6-10月 アオムシ終令幼虫期に終令幼虫及び脱出した寄生蜂の繭を採集し羽化箱装置に入れ成虫を採集する

チビトビコバチ(Arrhenophagus albitibiae)
6-10月 クワシロカイガラムシ多発園から雄繭を目印にカイガラムシ寄生枝を採集し、羽化装置に入れて成虫を採集する

キンウワバトビコバチ(Litomastix maculata)
6-9月 ニンジン・ゴボウの栽培園でキクギンウワバ・キクキンウワバ等の繭を採集する。羽化装置に入れると1個の繭から2000-3000頭の均質な寄生蜂が得られる

マルボシハナバエ(Gymunosoma rotundatum)
5-10月 雑木林にチャバネアオカメムシの集合フェロモントラップを設置し、成虫を生け捕りにする。ニンジン・オミナエシなどの花に集まるものも捕虫しやすい

キクズキコモリグモ(Lycosa psedoannulata)  
7-10月 水田付近の休耕田・大豆・さつまいも畑等、植物が枯れかかったような場所でスイ-ピングまたはビ-テングなどで取り、共食いを防ぐように個体別に容器に入れる