土着天敵を利用した総合防除の具体的マニュアル

 経済効率重視のため圃場の大規模化、雑草の除草剤による除去等の栽培環境の変化によるって、土着天敵の力が弱まり、害虫の種類や発生量に大きな変化を与えた。 これらの変化は土着天敵の住みかや農薬からの退避場所を奪い、土着天敵の生存や再侵入の機会を著しく減少させた。現状では土着天敵による害虫の被害防止は再現性のある技術として確立出来ない。 一部の篤農家が有機栽培・無農薬栽培などと関連して、土着天敵の利用を実践している。生産量・品質が安定しないのが難点ではあるが、害虫の被害軽減に対して天敵が有効に働いている場合が多い。しかし害虫と天敵の相互関係が解析されていないので再現性に乏しく、安定生産を求める多くの生産者からは受け入れられない。


圃場環境の評価---マクロ的な評価  個々の圃場についての評価

土着天敵利用の原点は天敵保護涵養のための設置にある。緩衝地帯の広さは耕地の1/10-1/20の面積が必要で、作物の種類によっていろいろな形態を創出する必要がある(生け垣・下草・畦・防風樹・境木、間作、混作)。このように農地の構造を作り変えるためには強い確信と投資が必要である。農地周縁部の植生は農薬のドリフト防止の観点からも必要である。土着天敵利用の前提条件を圃場周辺について説明しました。しかし実際の農耕地では圃場の面積やその地域全体の状況が重要な場合が多いのです。そのようなマクロ条件を評価する手段として最近ではグーグルの衛星写真の利用が簡便です。
一例として牛久市の植物防疫協会圃場の様子を高度を変えた視点からの写真を示しました。
それぞれ10Km,4300m,1000m,500m,230m上空からの様子がよく見えます。。
また航空写真も便利です。最近ではラジコンヘリの利用などによって農地の航空写真は撮影しやすくなっています。4km(16ha)程度の縮尺で撮影された6月頃の写真が理想的です。緑色部分が植生(作物・雑草・森林)です。最も理想的なタイプは緑色に多様性があり、それが複雑に入り交じっている地域です。同一色が広ければそこでは圃場周辺の個々の人工的な植生が必要になります。天敵には移動力(行動範囲)の大きなものと移動力の小さいものがあります。前者はクモ・寄生蜂・アブ・アシナガバチ・トンボなどがあり、後者はカブリダニ・小型のテントウムシ類・ハネカクシ・アザミウマなど主として小型の天敵があります。どんな害虫が主要種か、どんな天敵がリサ−ジェンスを抑えるために必要とされるのかを的確に判断しておくことが必要です。
航空写真によって視覚的な判断を加える例を2、3示します。
作物の時間的配置も重要な構成要素です。秋冬期の麦作や春のレンゲ栽培などは春夏作に対する土着天敵の効率的な利用になくてはならない要素です。圃場の連続的な使用は天敵の連続的な活動を可能にします。例えば収穫時期の麦(5月下旬−6月上旬)にはアブラムシの寄生蜂や捕食性のヒラタアブなどが大量に生息しています。これを上手に次の作物のアブラムシ防除に利用すべきでしょう。レンゲもそのような意味では多くの捕食性天敵を含んでいます。

周辺植生管理の要点
1.作物に対する散布薬剤を絶対に付着させない。出来れば1mほどの無散布地帯を作る(50m幅以上の圃場)
2.植物の結実を防止できる時期を確かめて刈り取り・除草剤(茎葉)散布をする.
3.周辺植物からの移動が期待される天敵は作物によって異なる。若い組織《部位》を好むアブラムシ・アザミウマ・ヨコバイなどを捕食する天敵や若い葉に産卵された卵に寄生する卵寄生蜂等である。したがって周辺植物では若い葉や芽を継続して確保できるような管理が必要である.果樹園ではカブリダニのように移動能力の低い天敵の力を借りることが必用なので下草を周辺植生と考え,同じ原則が適用できる。周辺の防風樹の役割は特異的である。果樹害虫に多いカイガラムシ類の天敵,くも類等が期待される。人為的な管理による調節については不明な点が多い。
4.最も重要な周辺植物の種類の選択については現状では慣行的な経験に依存する面が多い。今後使用薬剤・圃場面積なども考慮したベタ−ケ−スの集積を待たなければならない。


使用農薬の選択---残効性 選択性の総合的な評価


実際の総合防除では突発的な害虫や作物の生育初期に発生する害虫には薬剤散布が必要です。
天敵に影響が少ない薬剤を積極的に活用し、室内試験で影響のあるとされる薬剤も必要な場合には影響が最小限になるように工夫して使用する。極端に云えば圃場で使用する薬剤は天敵を全滅させても、害虫に効果が確実なものが必要です。土着天敵利用は薬剤散布後天敵が周辺植生または隣接圃場から侵入・移動して、その後の害虫の増殖に抑制効果を発揮するのを期待します。その場合には天敵の移動が確実に行われること、使用薬剤の天敵に対する影響が長くても7日以内であることなどが基本的な条件です。実際にはどんな基準で農薬を選択したらよいのでしょうか。殺虫剤には昆虫やクモの種類によって影響の極端に違うものがあります。散布した農薬の実際の残留量のデータ、その残留量での天敵に対する影響の一例を示しておきます。これまでのいろいろな手法による試験デ−タ−をまとめたものがバイオロジカル協議会から公開されています

IPMにおける薬剤使用の要点

 散布面積:小面積では影響の強い薬剤も使える。大面積では影響の弱い薬剤も注意を要する。
 周辺植生面積:薬剤散布回数の少ない作物も周辺植生として考慮することが出来る。
 薬剤の選択性1ha以上の圃場ではいずれの薬剤もD、C、B、Aの順に選択する。
 薬剤処理法:1ha以上の圃場ではある程度散布間隔をずらす。

作物別マニュアル

  1. 水田

  2. 畑作

  3. 野菜

  4. 常緑果樹

  5. 落葉果樹